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健康経営とは2014年に「国民の健康寿命の延伸」に関する取組の一つとしてはじまりました。
健康経営は企業が主体となって従業員の健康管理を経営的な視点でとらえ、そこに投資を行う事で健康増進や疾病予防を行い、組織の活性化、業績の向上、株価上昇などにつながると期待されている取組です。
健康経営銘柄やホワイト500といった健康経営に関する認定制度も始まり、社会全体での認知度も上がってきています。
しかし、健康経営という言葉は知っていても実際どのように取り組めばよいのかわからない方も多いのではないでしょうか。
ここでは健康経営に関してその取り組みの進め方や、企業が行っている具体的な取組について説明していきます。
健康経営は高齢化社会に突入していく今の日本にとって必須の施策です。
高齢化社会が進んでいくと様々なコストの増加や悪影響が社会全体に影響を及ぼします。
特に、社会保障費の増大、労働力の低下といったことが懸念されているのです。
健康経営はこれらの課題に対する解決策の一つとして有効な取組の一つです。
以下に高齢化社会による上記2つの課題について説明していきます。
社会保障費は年々増加しており、2016年度は118兆円を上回る水準となっています。
2017年の国の一般会計の歳出は97兆4547億円であり、社会保障費は国家予算を超える規模となっています。
高齢化社会になると、日本の年齢による人口比率は高齢者の数は頭打ちになりますが、若年層が減少することになり若年層が支払う社会保障費が増大していくのです。
社会保障費の増加は健康保険組合などの財政悪化を招き、結果として健康保険料の上昇となり、企業経営に大きな影響を与える可能性があります。
日本では健康経営に取り組み、病気の予防等を行い社会全体で医療費の削減なども行う必要があるのです。
経済産業省ヘルスケア産業課「健康経営の推進について」4P
http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/180710kenkoukeiei-gaiyou.pdf
日本は超高齢化社会に突入し、生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)はすでにピークを過ぎ減少期に入り、労働力人口(15歳以上の人口のうち就業者と完全失業者の合計)も2020年代には減少していくと予想されています。
健康経営に取り組むためにはどのようにすればいいのでしょうか。
取り組む際の指標となるのが健康経営銘柄を選定する際に使用される、健康経営度調査の評価モデルです。
①経営理念・方針
②組織体制
③制度・施策実行
④評価・改善
⑤法令順守・リスクマネジメント
という5つのフレームワークから評価し、ウェイトをかけて最終的な評価を出します。
経済産業省「健康経営銘柄2018選定企業紹介レポート」2P
http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkokeieimeigara_report_2018.pdf
健康経営度調査の評価モデルを参考にし、ここでは次の3つのステップに分けて健康経営の取組方の説明をしていきます。
(1) 組織・体制作りと告知
(2) 健康状態の把握と目標設定
(3) 施策の実行・成果チェックと改善
健康経営に取り組むために必要なことは組織・体制作りとその告知です。
このためにはまず、経営理念や方針を決定する必要です。
健康経営度の評価モデルでいうところの①経営理念・方針と②組織体制にあたり、最終的に評価する際のウェイトも高くなります。
健康経営に取り組むためには、経営トップがその意義や重要性をしっかり認識する必要があり、その考えを社内外に示すことも重要です。
健康経営は全社的な取組であるため、人事部だけで施策をするのではなく、経営のトップ及び、各部門を横断の体制が必要なのです。
そのため、従業員の健康保持・増進の取組に関する取組については、企画立案の段階から役員会での討議事項とする等の体制を整備しましょう。
組織の構築にあたり、方針に応じて専門部署の設置や人事部など既存の部署に専任職員、兼任職員を置くなどの対応が考えられます。
また、取組の効果を高めるため研修の実施なども必要になります。
他には企業として健康経営に取り組む姿勢を従業員や投資家など、様々なステークスホルダーにメッセージとして発信することが望ましいでしょう。
例えば、住友林業株式会社では安全と健康の確保は企業の価値を向上させるものと考え、従業員の健康保持・増進に対する全社的な方針を行動規範、倫理規範、安全衛生管理規範などで明文化し、社内イントラネットなどで社内での情報共有を行っています。
健康経営に取り組むには自社の従業員の健康状態を把握したうえで、会社全体の目標や個人の目標を設定することが重要です。
現状把握は評価モデルの③制度・施策の実行の前段階で必要となるもので、目標は①経営理念や方針を具体化したものになります。
現状把握をする際、従業員の健康に関するデータは新しく取得するのではなく、既存のデータを掛け合わせて基礎データを作ることが必要です。
企業が保持している定期健康診断の結果に加え、長時間労働の状況などに関する情報と保険者が保持している従業員の定期健診査の結果や治療・処方箋委関する情報を掛け合わせることで、長時間労働と特定保健指導の要否や医療費などの相関関係を分析できるようになります。
これによって部署・業種別の健康状態の把握や、医療費を下げる、メンタルヘルス不調者を減らすなどといった具体的な目標に向けた施策を検討する際の基礎データを作れるのです。
現状を把握したうえで目標を設定する際、効果的に行う事ができるようにあらかじめ評価指標を設定し成果の目標をたてましょう。
この際、可能な限り定量的指標を用いることで、事業後の施策の評価や改善策が具体化できます。
例えば、ロート製薬では2020年に向けての健康目標を設定し、生活習慣病に関わる肥満、血糖値、高血圧に加え、低体重や貧血など女性特有の項目も指標として設定しています。
他にも、残業時間や有給取得率、食事や睡眠に至るまで具体的な目標を設定しています。
https://www.rohto.co.jp/~/media/cojp/news/release/2017/0403_01/160403_01.png
ロート製薬「健康経営の推進で、社員の健康づくりと働き方改革をさらに加速」
https://www.rohto.co.jp/news/release/2017/0403_01/
健康経営は、経営トップや担当部署、産業保健スタッフ、健康保険組合、労働組合、従業員など様々な主体が関与して実施されるものです。
実施の際、これらが互いに連携し、相乗的な効果のある効率的な制度・施策がなされることが望ましいといえます。
健康経営の実行をするにあたって、従業員が積極的に取り組むことで成果は上がりますが、そのために企業はどんな取組をしているのでしょうか。
例えば、花王株式会社では全社で健康経営に取り組むために「花王グループ健康宣言」を全社員に配布しています。
社長自らが健康目標をたて実行していくと宣言し、社員一人ひとりに対しても今年の健康目標をたてて実行してほしいなどと言及し浸透をはかっています。
株式会社ベネフィット・ワンでは社員のヘルスリテラシー向上のために「健康ポータルサイト」を設置し、健康に関する情報の発信、健診結果を年ごとに管理できるようにしています。
また、「健康ポイント」を導入し、インセンティブによる健康意識の向上と行動の習慣化を促しています。
取組の効果を検証する際、現状の取組の評価を、次の取組に生かせるよう、PDCAがしっかりと機能するような体制を構築、維持することです。
取組の評価にあたっては、ストラクチャー(構造)・プロセス(過程)・アウトカム(成果)の3つの視点にて健康経営を評価することが重要であるといえます。
経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課
「企業の『健康経営』ガイドブック ~連携・協働による健康づくりのススメ~」
http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkokeiei-guidebook2804.pdf
健康経営は全社的な取組であり、人事部だけで行うことはできません。
ここでは上層部へ健康経営を提案、プレゼンする際に必要となるような情報について説明していきます。
日本は今後、超高齢化社会になっていき、労働力人口も減少していくことは確実となっています。
残された猶予は短く、早急に手を打つ必要があるのです。
労働力人口が減少していく中で、一人当たりの生産性を高めることは何よりも重要となります。
その生産性を低下させてしまう要因としてプレゼンティーイズムとアブセンティズムというものがあります。
健康経営によってこれらの問題を取り除き、従業員の生産性を100%に近付ける事が出来れば、長時間労働の是正やワークライフバランスの改善することができるのです。
労働生産性が低下してしまう要因としてアブセンティズムとプレゼンティーイズムはどういうものでしょうか。
アブセンティズムは正当性のない欠勤や遅刻のことで、直接的に生産性に影響を与えます。
プレゼンティーイズムとは、従業員が出社しているにもかかわらず、なんらかの不調があり、それが原因で本来のパフォーマンスを発揮できない状態のことをいいます。
欠勤をするなどアブセンティズムの方が問題に思えますが、実際はプレゼンティーイズムによる損失が大きいのです。
日本の大企業におけるデータを基に分析した健康関連コストの構成割合では、医療費が17.3%であるのに対し、アブセンティーズムコストは5.1%、プレゼンティーイズム損失コストは74.7%であり、生産性損失コストが8割を占める事がわかっています。
健康関連コストの構成割合
津野陽子・尾形裕也・古井祐司(2018)「健康経営と働き方改革」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kenkokyoiku/26/3/26_291/_pdf/-char/ja
プレゼンティーイズムは運動習慣や睡眠休養とも大きな関連があります。
また、ストレス、仕事満足度、生活満足度の心理的リスクと関連は特に強く、生産性を向上させるためにはメンタルヘルス対策や職場環境の整備などの対応が重要であるといえます。
健康経営を行う事でどのようなメリットがあるのでしょうか。
(1)健康経営と業績の関係
(2)健康経営と労働市場の関係
(3)株式市場での優位性
といったものが挙げられます。以下に上記3つのものに関して説明していきます。
(1)健康経営と業績の関係性
健康経営に積極的な企業の従業員ほど、重大な疾病にかかるリスクや年間の医療費が低いことがわかっています。
健康経営度調査結果から東京大学などが実施した調査では、健康経営の評価値が高い高スコア郡の企業と低スコア郡の企業の年間の医療費や健康リスクに関する調査を行ったところ、どれも高スコア郡の企業の方が良い結果になりました。
健康上のリスクが低いということは、それだけアブセンティズムやプレゼンティーイズムが排除されることになり、結果的に生産性は上がり、業績も向上するのです。
経済産業省 ヘルスケア産業課
(2018)「健康経営の推進について」15P
http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/180710kenkoukeiei-gaiyou.pdf
(2)健康経営と労働市場の関係性
健康経営に取り組むことで人材の確保や維持に対してメリットがあります。例えば、健康経営に取り組んだことで離職率が低下したとする企業もあります。
他にも、就活生と就職を控えた学生を持つ親に対してアンケートを実施したところ、健康経営に力を入れることで、就活生やその親が企業に関心を持つ可能性があることがわかりました。
就活生の4割以上が就職活動の際重視していることは「福利厚生の充実」・「従業員の健康や働き方への配慮」です。
また、就活生の7割は親の意見を考慮に入れると回答しており、「従業員の健康や働き方への配慮」は就活生・親ともに高い数字となっています。
就職先を検討する上で親が持つ企業イメージや情報が重要な要素を占めているために、労働市場において、健康経営を行っていることをアピールすることは重要になっているのです。
経済産業省 ヘルスケア産業課
(2018)「健康経営の推進について」18P
http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/180710kenkoukeiei-gaiyou.pdf
(3)株式市場での優位性
近年、株式市場でも健康経営を行う事で評価される傾向があります。
企業による健康経営健康投資に関わる情報は、中長期的な企業の成長、持続可能性を評価するためにESG(環境、社会、ガバナンス)といった非財務情報を重視した投資が急速に増えています。
健康経営を行い従業員の生産性を向上などすることは、社会を構成する重要な要素の一つである従業員への投資にあたり、投資家から注目されているのです。
また、平成25年と平成26年と実施した健康経営銘柄の好影響もあり、多くの企業で従業員の健康投資に関わる取組が加速しています。
しかし、必ずしも各社の健康経営に関する取組が各種ステークスホルダーから見て「見える化」が出来ていない状況です。
適切に評価しづらい今の状況は双方にとって機会の損失になっています。
健康経営を戦略的に取り組んでいる企業として経済産業省が東京証券取引所の上場会社の中から選定した銘柄のことを「健康経営銘柄」といいます。上場しており、評価が上位20%の中から選出されています。
2018年には回答企業数は1,239社で、健康経営銘柄に選定された企業は26社です。
2015年から始まり2018年で4回目の選定となりました。
ここでは、健康経営銘柄に選定された企業を5社紹介いたします。
花王株式会社は2015年から2018年まで毎回健康経営銘柄に選定されています。
2008年に「花王健康宣言」を発表し、PDCAサイクルで健康経営を進め、「ヘルスリテラシーの高い社員」となることを目指しています。
「花王健康宣言」では理念の中で社員が公私ともに充実した日々を過ごすためのベースは「健康」であるとし、社員だけでなくその家族の健康支援いついても言及しています。
具体的な取組としては生活習慣病に対して、健診前の「ヘルシアウォーキングチャレンジ」、太りやすいお正月明けには「42日間減量チャレンジ」といったものを実施しています。
テルモ株式会社も2015年から4年連続で経営銘柄に選定されています。
この会社では経営トップがコミットして健康経営を進める事を明言しています。
社のイントラネット上に健康経営に関する専用のサイトを作り、健康経営に取り組むことを発信しています。
その方針は喫煙率、メタボ率の低減、がんの早期発見・早期治療・職場復帰、ウィメンズヘルス、自発的取組の奨励に注力することです。
TOTO株式会社も2015年から4年連続で健康経営銘柄に選定されています。
企業理念に「一人ひとりの個性を尊重し、いきいきとした職場を実現します。」とあり、心身の健康づくりを推進し、「健康管理」、「メンタルヘルス対策」、「健康増進」を三本柱にしています。
従来の治療や対処療法の処置を行う診療所から、予防型のヘルスケアセンターを設置し、産業保健スタッフが全社的視点で活動をしています。
定期健診の事後措置を徹底して取り組み、メンタルヘルス対策では一次予防のセルフケア研修に加え、不調者への早期対応と再発予防のための監督者研修を実施しているようです。
フジクラは2018年に初めて健康経営銘柄に選定されました。
「企業の競争力はそこで働く社員の良好な健康状態が基盤となる」という理念に基づいて「フジクラグループ健康宣言」を発表しています。
個人向けの健康管理ウェブページを社員やその家族に提供するなど先端技術を取り入れた施策を展開しています。
日々の活動量や体組成、血圧、健診などの各種データを一元管理できるシステムを活用して総合的な解析を行い、個々の健康状態に対応する支援や健康増進イベントの実施をしえいます。
変わったところでは昇降式デスクを導入し、立ち作業を取り入れたり、オフィスでの業務中にフジクラストレッチを実施するなど肩こりや腰痛対策も行っています。
株式会社デンソーは2017年に初めて健康経営銘柄に選定され、2018年にも選定されています。
「健康増進に向けた社員の意識向上と職場での健康管理の推進」を明記し
経営課題のひとつにしている。
個人の健康行動に対する気づきを促進するために、個人の健康レベルを点数化した独自の健康指標「生活習慣スコア」を導入しています。
「生活習慣スコア」は健診結果と問診データを基にされたもので、個人の生活習慣レベルとを点数化し、従業員に通知しています。
スコアの平均を「社内健康レベル」として県年変化や施策の実行性を確認する手段としています。
独自に開発した健康づくりサポートアプリ「デンソー健康ステーション」の活用や研修などにより、社員の健康意識が高まり、運動習慣者比率も増加傾向にあります。
健康経営の取り組みの手助けとなる様なサービスを紹介します。
https://welhapi.jp
株式会社オクタウェルが提供する「ウェルハピ!」は健康経営に取り組む企業をサポートするサービスを提供しています。主に首都圏域の事業者向けに、健康優良法人認定取得のための情報整理から申請のための規格実行まで必要なサービスの手配をウェブサイト上で一括提供しています。
よくわからない、またはわずらわしい作業を省略して健康経営を実践可能になります。
https://office.okan.jp/
オフィスおかんは様々な企業で利用できる食の福利厚生サービスです。
専用の冷蔵庫、ボックス、料金箱を設置し、総菜やご飯、容器、橋類を定期的にスタッフが補充してくれる「ぷち社食」のサービスを提供しています。
グッピーヘルスケア[健康ポイント]はスマートフォンアプリを用いて従業員は健康活動(運動、飲食、睡眠など)を管理し、健康ポイントという形で「見える化」してくれるものです。
健康ポイントはアマゾンギフト券や現金と交換でき、健康に対する動機付けになります。
経営者や人事担当者は従業員の健康状態の平均値をWEBで可視化することができ、健康経営の指標となります。
ここまで健康経営について必要になってきた背景や進め方、取り組んでいる企業等について説明してきました。
健康経営への取組はまだ始まってから日は浅く、それぞれの企業が試行錯誤を通して取り組むことが多く、確固とした手法が広く知れ渡っているわけではありません。
健康経営を始める際は、本記事や様々な事例等を参考にして実施することをお勧めします。
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